サマータイム法案/地元国会議員へのアピール

2005年4月23日

サマータイム制の導入の動きが、また活発になっています。推進派にとっては「三度目の正直」だそうですが、わしとしては「二度ある却下は三度ある」といきたいところです。(前回の運動は1995年〜99年頃、その前はいつだったのかな?)

現在、超党派の「サマータイム制度推進議員連盟」は法案の内容を固め、各党での議論を経て連休明けにも上程されるという、切迫した状況です。「サマータイム反対!」とかネットの掲示板に書いてるだけでは事態はほとんど好転しないので、こんな手紙を書いて、地元の国会議員に電子メールで送ってみました。
○○さま
スタッフのみなさま

△△在住の☆☆と申します。

 先日の読売新聞で、「サマータイム法案」が来月にも国会に提出されると知り、お手紙さしあげます。私は、サマータイムには以前から興味があり、資料を読み、知人とも議論し、さまざまな観点から考えてきました。
 今回サマータイムを推進している「生活構造改革フォーラム」(財団法人社会経済生産性本部)の説明によると、主な目的は三つです。

1.省エネ
2.経済効果
3.充実したライフスタイルの実現

 しかし、よく検討してみると、その目的のどれも、「サマータイム制度を導入すべし」という結論に至ることができません。私の得た結論はこうです。

一、省エネには、「夏の軽装」を推進すべきです。
一、温室効果ガスの削減には、自然エネルギーを推進すべきです。
一、わが国の安全保障のためにも、自然エネルギーを推進すべきです。
一、安定した雇用のためにも、自然エネルギーを推進すべきです。
一、自然エネルギーの推進は、わが国の国際的な地位を高めます。
一、サマータイムの導入は、わが国の国力を低下させます。
一、時計合わせだけで、年に二千億円以上の損失です。
一、サマータイムとライフスタイルの改善は関係がありません。
一、時差出勤・フレックスタイム制を推進すべきです。
一、意欲ある人たちが、貴重な時間を奪われます。
一、わが国の食料生産に悪影響を及ぼします。
一、西日本ではまったくの無駄です。
一、サマータイムの導入は、国益に反します。

 以下、それぞれについて説明いたします。

【省エネ効果・経済効果】

 サマータイム制の導入には、楽観的な見積もりでも1000億円規模の費用が必要となります。(資料1)

一、省エネには、「夏の軽装」を推進すべきです。
 最も簡単で確実な省エネ対策が、夏場の軽装による「冷房の緩和」です。
 導入コスト、運用コストともほぼゼロです。サマータイムに比べると1000億円の節約です。家庭を除外してオフィスのみで実施したとしても、省エネ効果はサマータイムを上回ります。(資料2)

一、温室効果ガスの削減には、自然エネルギーを推進すべきです。
 太陽光発電・燃料電池・マイクロ風力・マイクロ水力等の新エネルギー(自然エネルギー)の普及が進めば、温室効果ガスの削減は確実です。事業としても創造的で、投資が将来に生きます。サマータイムは、費用の割に効果が薄く、将来的な投資にもなりません。

一、わが国の安全保障のためにも、自然エネルギーを推進すべきです。
 現状主流である大規模発電・送電システムは、災害やテロが弱点です。また生産地と消費地が離れているため、長大な送電線の維持と防衛も必要です。最近は、組織腐敗や従事者のスキル低下による、これまで想定されてこなかった事故の可能性も浮上しています。
 自然エネルギーは分散発電に向いています。分散発電なら、災害やテロの際も、破局的なダメージを避けることができます。

一、安定した雇用のためにも、自然エネルギーを推進すべきです。
 分散発電の普及は、日常的な保守作業を必要とし、地域の安定した雇用を生みます。

一、自然エネルギーの推進は、わが国の国際的な地位を高めます。
 わが国では、石油資源・ウラン資源ともに輸入品です。石油依存・ウラン依存を脱することは、地域としての自立性を高め、わが国の国際的な地位を強くします。(資料3)

 エネルギーも地産地消の時代です。サマータイム制の導入に使う資金があるなら、自然エネルギーによる分散発電システムの普及に投資すべきです。

【IT技術者にしてもらうべき仕事】

一、サマータイムの導入は、わが国の国力を低下させます。
 サマータイム制の導入には、ソフトウェアの改修が不可欠です。改修規模は、大騒ぎになった「コンピュータ2000年問題」をはるかに超えます。正常なシステムも含め、すべてを作り直さねばならないからです。
 システム改修で経済効果が……といいますが、その「儲け話」は、わが国の国力低下を招きます。数に限りのあるIT技術者が、サマータイム対応という「本来しなくてもいい、創造的でない仕事」をこなす間、先端分野への注力ができません。その結果、わが国は国際的リーダーシップを取る機会を失います。
 私の懸念は、サマータイムに賛成する人たちが、そういうコストまで考慮に入れて賛成しているようには見えないところです。

【軽視できない時刻変更の負担】

一、時計合わせだけで、年に二千億円以上の損失です。
 サマータイム制が導入されると、年に二回、全国民が、身の回りすべての時計について、時刻を合わせねばなりません。掛時計、目覚し時計、腕時計、炊飯器、電子レンジ、洗濯機、エアコン、お風呂、テレビ、ビデオ、ビデオのリモコン、ラジカセ、携帯ラジオ、留守番電話、電話の子機、携帯電話、パソコン、カメラ、自動車、カーナビ……。
 ○○さまは、これらの時刻合わせを自力でできますか。私の母と祖母には、絶対にできません。実家の時計の大半は、サマータイムに突入しても、以前の時刻を指したままでしょう。合わせ損ねによる混乱は必至です。そのとき、誰か損失を補ってくれるのでしょうか。時計を合わせられない人が責任をかぶるのですか。
 時計を合わせるのに、取扱説明書を探す手間も考えれば、一つ五分でできたら上等でしょう。十個なら一時間はかかります。自給千円の労働と考えれば、作業人口を一億人として、実に二千億円の労働に相当します。それが毎年です。
 サマータイムは、巨大な損失を伴うのです。

【ライフスタイルについて】

一、サマータイムとライフスタイルの改善は関係がありません。
 生活構造改革フォーラムは「充実したライフスタイルの実現」を掲げています。
 しかし、「そのためにはサマータイムが必要」という根拠は示していません。そんなデータはないからです。

一、時差出勤・フレックスタイム制を推進すべきです。
 時差出勤・フレックスタイム制が普及すれば、通勤ラッシュが緩和されます。通勤時の苦痛が緩和され、鉄道や道路といった社会インフラの必要水準は下がります。大規模なコスト削減が可能になります。しかも導入コストはサマータイムとは比較にならないほど低いのです。
 サマータイム制では、ラッシュ・ピークを引き下げる効果はありません。

一、意欲ある人たちが、貴重な時間を奪われます。
 「夕方の明るい時間が活用できる」という説明があります。しかし、わが国で「夏の夕方」といえば、大半の地域、特に都市部では、いちばん外に出たくない時間です。サマータイム制を活用しているという西欧諸国とは、気候がまったく異なるのです。
 朝の涼しい時間に、ジョギングや庭いじりや犬の散歩をしている人たちがいます。これを夕方に変更するとなると、熱射病で倒れる心配が先に立ちます。犬の散歩は夕方には無理です。日が落ちても、アスファルトが十分冷えないと、犬が死んでしまいます。
 サマータイム制が導入されると、朝の豊かな時間が一律に奪われてしまいます。代わりの時間はありません。

一、わが国の食料生産に悪影響を及ぼします。
 農業・漁業に従事していると、時計が進んだからといって仕事の時間を変更することはできません。
 サマータイムで出勤時間が一律に早くなってしまうと、農家の大半を占める兼業農家では、朝の時間に行うべき農作業ができなくなり、ライフスタイルが崩壊してしまいます。

一、西日本ではまったくの無駄です。
 西日本は、すでにサマータイム同然です。夏の沖縄では、まだ日差しのきつい時間に、東京からの「こんばんは」という放送が流れています。
 サマータイムになれば、太陽はさらに一時間高くなります。ただでさえ問題になっている深夜型のライフスタイルに拍車がかかるだけです。メリットは皆無です。

一、サマータイムの導入は、国益に反します。
 サマータイム制の導入は、「それぞれの地域、それぞれの職業、それぞれの家族、それぞれの人」に由来する、多様なライフスタイルへの配慮を欠いています。
 日照の変化に生活を合わせるなら、全国一律に時計の針を進めるサマータイムでなく、「必要な地域で、必要なだけ」登校や出勤の時刻を調整する方が、国民全体の利益です。

【お願い】

 サマータイム法案が党内で議論されたら、その議論の内容をオープンにしてください。
 いま手に入る資料で検討するかぎり、「導入すべきでない」という結論しか出ません。その一方、推進派の言い分は、さっぱり聞こえてこないのです。
 超党派の「サマータイム制度推進議員連盟」にしても、ホームページもなく、どなたが参加しているのかさえよくわかりません。推進団体の「財団法人社会経済生産性本部・生活構造改革フォーラム」のホームページに書かれている内容は、完全に論破されました。
 どういうつもりで法案を提出するのか、ぜひオープンにしていただきたいのです。

 サマータイム制が導入された場合、予測されるデメリットは、具体的にいくつも指摘できます。メリットは、あるのかないのか不明です。不明瞭な効果に対して、導入コストも運用コストも、考えられるリスクも、あまりにも大きいのです。
 しかも、重大なことに、国民への説明がほとんどなされていません。導入を強行すれば社会は混乱し、高いコストとの相乗効果で、国力の低下を招くことは間違いありません。
 サマータイム制の導入については、ぜひとも、十分な時間を費やし、広く開かれた議論を展開していただきたく存じます。
 どうぞよろしくお願い申し上げます。

 上記の内容につきまして、何かご不明な点などあれば、☆☆までお問い合わせください。可能なかぎりの対応をさせていたださます。

 お忙しいところ、突然このような手紙をさしあげ、失礼いたしました。今後ますますのご活躍を期待しております。

氏名
メール
住所
電話

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▼資料1
▽サマータイム導入による「省エネ効果 原油換算50万キロリットル」(生活構造改革フォーラム)http://www.seikatukaikaku.jp/summer/d.html
▽オフィスの「冷房温度を全国で1℃上げれば、1年間で原油換算約84万キロリットル分のエネルギーを節約できる」(環境白書 平成9年)http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/honbun.php3?kid=209&bflg=1&serial=10300
▽「カジュアルな服装が許されない場合でも、たとえばデスクワークの間だけでもネクタイをはずせば、体感温度は2℃ほど涼しく感じられます」(財団法人省エネルギーセンター)http://www.eccj.or.jp/ambassador/jpn/26/2/2_1.html
▽「首相、ノーネクタイ宣言 省エネで閣僚にも要請」(産経新聞3月29日)
http://www.sankei.co.jp/news/050329/sei123.htm
▽「省エネで皆ができることで、一番簡単なのは、ネクタイをやめることです」(茅陽一・生活構造改革フォーラム代表)http://www.mhi.co.jp/atom/apower43.htm

▼資料2
▽「政府が実施する事前施策の費用や、行政・企業などのコンピューターのソフトウェアの改修費など、総額で約850〜1000億円程度と見込まれています」(生活構造改革フォーラム)http://www.seikatukaikaku.jp/summer/j.html

▼資料3
▽小泉首相、ラジオで「脱石油戦略」策定を語る(財団法人環境情報普及センター)
http://www.eic.or.jp/news/?act=view&serial=10054
▽自然エネルギーの活用で「中東に対するエネルギー対策、また日本の外交交渉にも力を与えますね」(小泉総理、ラジオで語る 第26回「脱石油戦略」/首相官邸)
http://www.kantei.go.jp/jp/koizumiradio/2005/0416.html

……そういうわけで、反対です。(反対の理由はまだまだあるけど)

この手紙は自由にコピーしてもらいたくて掲載しました。
これを読まれたみなさんも、地元の国会議員の人に送ってください。
メールがなかったら、プリントして事務所に持っていくか、郵送してください。
事態は切迫しています。

わしはふだん「国益」とかあんまり言いませんが、サマータイムについては言います。
サマータイム制度を導入するのは、わが国のためになりません。賛成している国会議員は、背任行為を働こうとしているのです。国賊です。無知、あるいは想像力が欠如しているための賛成であっても、それは罪です。
いま賛成の議員さんでも、手紙を読んで意見が変るなら、コロッと変えていただきたい。「君子豹変す」といいます。この言葉は、こういうときに使うのです。

⇒最初の版(4月22日)はこちら
松永洋介 ysk@ceres.dti.ne.jp