設立趣意書:「わたしたちは、建物の全貌を、日本の近代化遺産として、後世に残していくことを強く望んでいます」2014年10月18日

▼近代の名建築 奈良少年刑務所を宝に思う会 設立趣意書(2014/10/18)

奈良少年刑務所は、明治41年竣工の名煉瓦建築として、いまも、奈良市般若寺町の丘の上に、その偉容を誇っています。2013年の「日本赤煉瓦建築番付」では、西の横綱の一つに指名されました。放射状に監房の伸びた様式のこの刑務所は、明治時代、国がその威信をかけて造った「明治五大監獄」の一つでした。千葉、金沢、長崎、鹿児島はすでに取り壊され、全貌が残っているのは、奈良のみです。しかも、刑務所としてすべて現役で使用されています。

明治時代、日本は、さまざまな不平等条約を抱えていました。外国人の犯罪に関しては、「人権を守れるまともな監獄がない」という理由で、領事裁判権を取られていました。これに発憤した政府は、司法省の建築技官である山下啓次郎氏を海外に派遣、徹底的に研究を行い、山下氏らの設計により「明治五大監獄」を建築しました。そして、西欧諸国に「わが国にもこんな立派な刑務所がある」と主張するために、過剰に立派な監獄を築いたのです。この結果、不平等条約は改正されました。

使用している煉瓦は、すべて当時の囚人たちが、木津川のほとりの煉瓦工場で焼いた手作り煉瓦だと言われています。独特の風合いと、その一つ一つを積みあげて生まれる美しさは格別で、いまはもう、新たに造ることの叶わない、貴重な建築物です。

刑務所といえば、嫌われるのが世の常ですが、奈良少年刑務所は、その美しさゆえに、地元の人々にも深く愛されています。年に一度の一般公開日「矯正展」には、多くの人が訪れ、刑務所内部の見学ツアーは常に満員です。刑務所を身近に感じることで、出所後の少年たちへの眼差しも自然と温かいものになります。ここで暮らす少年たちにとっても、情緒の上でよい影響があり、更生に寄与していることと信じています。

奈良少年刑務所は、「奈良の宝」「日本の宝」と呼べる貴重な建物であるにもかかわらず、文化財指定が一つも付いていません。わたしたちは、建物の全貌を、日本の近代化遺産として、後世に残していくことを強く望んでいます。そのため、文化財指定を求める活動を行うとともに、受刑者の人権確保のための安全性・居住性、職員にとっての使い勝手など、必要な事項を検討し、提案していく所存です。また、会の活動を通じて、刑務所と更生教育への理解を深め、安全安心な社会を作ることに寄与することを目指しています。