復刻版の序

春田正治
(和光学園 理事長)

 本書は、書中「編集後記」に明記されているように、和光大学が創立一〇周年をむかえた昭和五〇年に、和光大学広報委員会が、「梅根悟学長がこの一〇年間に和光大学について書いた文章を整理し、系統づけ、編集した」ものであって、同委員会は本書が、「特殊的には和光大学という小さな実験大学の足跡をあきらかにすることになり、また一般的には日本の大学教育改革への有力な示唆となるのではあるまいか」と期待した。
 さらに本書の巻末には、大学当局によってまとめられた「和光大学十年の歩み」「和光大学の現況」及び「和光大学の教育課程」が参考資料として付記されているので、たとえば一〇年間の「財政の推移」にいたるまで「十年の歩み」の詳細を知ることもできる。
 本書は講談社より第三版まで発行されたが、以降は絶版となり、版元では廃棄されてしまったそうで、今ではまったく入手不可能である。本書には、戦後日本教育の最高のりーダーの一人であった梅根さんの「和光学園そして和光大学」に寄せる烈々、かつ誠実な憶いが端的に吐露されている。
 梅根さんは、本書の巻頭で「和光大学」とはと問うて自ら次のように答えている。「和光大学は一人の偉大な創立者をいただく私塾型の大学でも、一つの教団の伝道機関としてのミッション・スクール型の大学でもあり得ないし、さりとて営利大学型の大学でもあり得ないとするなら、そのほかにどんな可能性がありうるだろうか。」「それはまさに和光学園が戦後歩いてきた道よりほかにはないだろう。」「それは言ってみれば、そこを職場としている教師たちの、集団としての教育的情熱あるいは教育意欲みたいなものではないだろうか。」「戦後の、日本生活教育連盟がこの学園を実験学校にしてから今日までの年月の間に、和光はそのような集団的な個性を作りあげてきたし、いわば以上のべた三つの型のどれにも属さない、第四のタイプのしかもユニークな個性と主張をもった私立学校として、成長したのである。」「教祖的存在の思想に依拠もせず、しばられもせず、また国家の支配に服することもなく、さりとて営利のための事業でもない、ただ学問と教育のすきな連中が集まって集団的に運営している大学、その意味でヨーロッパの中世大学がその始源において示したような、学者教師の集団(ウニヴェルシタス・マギストローム)としての大学の理念を今日において再現したと言っていいような大学、それが和光の大学のあるべき姿ではないだろうか。」
 わたしたち和光人は、和光教育とは何か?を考える時、何時でもこの梅根さんの和光学園、そして和光教育に対する愛情と至情に立ち帰ることが必須であると考える。
 そこで、このたび和光大学が創立二五周年を迎えたのを機とし、本書を復刻し、年々新たに和光学園の職員として参加する仲間の方々や、和光教育に関心を寄せ、理解を求める多くの方々にも親しく本書をひもとく機会をさしあげることにした次第である。熟読をお願いしたい。

一九九〇年十一月十日