TRONプロジェクトとは



 今では当たらない部分もあるが、しっかり生きている記述もある、TRONについての古典的な説明。現状はどこに。


TRONプロジェクト(レーザーシート版『現代用語辞典』一九九七年刊よりの抜粋)

「TRONプロジェクトは、一九八四年、当時東京大学理学部情報科学科助手であった坂村健氏の発案により開始された。初期においては、工作機械、ロボット等の制御用組み込みリアルタイムOSを開発する計画と受けとめられていたが、I、B、M、C各TRONからなるシリーズ化の概念が発表されるにいたり、コンピュータの体系全体を新たな概念のもとに作り直すという遠大な計画であることが明らかになった。ITRONが制御用マイクロプロセッサのための組み込みリアルタイムOS、CTRONはメインフレーム・コンピュータのためのOS、BTRONがエンドユーザ向けの統合操作環境を提供する高水準OS、MTRONはモジュラー・パネルによる住環境制御用インテリジェント・オブジェクトの規格およびその分散制御用OSである。
……TRONの特長はコンピュータと外部環境とのかかわりを重視したことで、外部環境の変化、ユーザーの指示等に実時間で反応するためのリアルタイム性を基本としたOS体系となっている。もう一つの特長として、パーツの概念によってバリエーションの展開を許しながらも計算機の概念モデルを統一したことが挙げられる。これにより、使用するハードウェア・ソフトウェアの違いを考えずにコンピュータの操作についての一般教育が可能になった。現在では考えられないことであるが、当時のコンピュータの概念モデルは提供者が野放図に決めており、A社のコンピュータは使えてもB社のは使えないという状況がまかり通っていた。この不統一性は、当時の他の民生機器、道具に比べ、完全にコンピュータ特有のものであり、コンピュータ・アレルギーの最大の原因となっていた。
……TRONの語源については諸説があるが、Todai ni itatokini tukutta Real-time Operating-system Nucleus の略でTRONという説と、The Real-time Operating-system Nucleus の略が有力である。坂村氏が当時公開された同名の映画を見ていたときにTRONの概念を考え付き、スクリーンを指差し『トロンだ!!』と叫んだという伝説もあるが定かではない。」

(坂村健『新版 電脳都市』岩波書店 1987年)


 トロン計画は一九九〇年代の技術水準をベースに革新的なコンピューター体系づくりを目指している。産業用機器向けの組み込み型OS(基本ソフト)のITRON、パソコン用OSのBTRON、スーパーミニコンや交換機向けOSのCTRON、および三十二ビットMPU(超小型演算処理装置)のTRONチップの四本柱から成り、相互にデータ交換・通信ができるように設計してある。推進母体のトロン協会は八八年三月の設立で、百二十六社が加盟している。

(『日本経済新聞』1989年6月12日号)


TRON

 TRON(The Realtime Operating system Nucleus)プロジェクトは、コンピュータの応用分野全体を対象に新しい標準アーキテクチャ体系を提案することを目的として、1984年から東京大学の坂村研究室で始められたプロジェクトである。内外の多くの研究者の方たちの協力を得ながら、政府の関与なしに完全な産学共同プロジェクトとして進めてきた。現在、基礎プロジェクトでは、32ビットVLSI、HMIシステム仕様BTRON、機器組込み用システム仕様ITRON、サーバ用システム仕様CTRONなどの研究試作を確立し、商用化も着々と進んでいる。また応用プロジェクトでは、TRON電脳住宅、ビル、都市、自動車、電子機器HMI、マルチメディア通信など多様な展開が行われている。なおTRONプロジェクトは現在もなお進行中である。昨年からはIEEE Computer Societyの協賛で、TRON会議のプロシーディングスや規格書の発行もはじまった。

(『bit』1992年10月号 共立出版)



松永洋介 ysk@ceres.dti.ne.jp