サマータイム法案/地元国会議員へのアピール

2005年4月22日

サマータイム制の導入の動きが、また活発になっています。推進派にとっては「三度目の正直」だそうですが、わしとしては「二度ある却下は三度ある」といきたいところです。(前回の運動は1995年〜99年頃、その前はいつだったのかな?)

現在、超党派の「サマータイム制度推進議員連盟」は法案の内容を固め、各党での議論を経て連休明けにも上程されるという、切迫した状況です。「サマータイム反対!」とかネットの掲示板に書いてるだけでは事態はほとんど好転しないので、こんな手紙を書いて、地元の国会議員に電子メールで送ってみました。
○○さま
スタッフのみなさま

△△在住の☆☆と申します。
気になる法案が国会に提出されるとの報道を見て、お手紙さしあげます。

 先日の読売新聞で、「サマータイム法案」が来月にも国会に提出されるとの決定を知りました。
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20050415it11.htm

 私は、サマータイム導入の動きには以前から興味があり、資料を読み、知人とも議論し、さまざまな観点から考えてきました。

 今回サマータイムを推進している「生活構造改革フォーラム」(財団法人社会経済生産性本部)の説明によると、主な目的は三つです。
1.省エネ
2.経済効果
3.充実したライフスタイルの実現
 しかし、よく検討してみると、その目的のどれも、「サマータイム制度を導入すべし」という結論に至ることができません。

 以下、私が検討した内容です。
 データには主として生活構造改革フォーラムの試算を用いました。効果やコストの点で楽観的すぎるとの疑いもありますが、議論の前提なので、これを採用して話を進めます。(なお、生活構造改革フォーラムは、前回サマータイム導入に失敗して解散した「地球環境と夏時間を考える国民会議」による10年前の試算をそのまま流用しています。代表は今回と同じ茅陽一氏)

【省エネ効果・経済効果】

 サマータイム制の導入には、楽観的な見積もりでも1000億円規模の費用が必要となります。(資料1)

 簡単で確実な省エネ対策としては、夏場の軽装による冷房の緩和が一番です。
 これは導入コスト、運用コストともほぼゼロです。つまり、サマータイムに比べると1000億円の節約です。しかも、家庭を除外してオフィスのみで実施したとしても、その省エネ効果はサマータイムを上回るのです。(資料2)
 省エネには、まず最初に「夏の軽装」を推進すべきです。

 太陽光発電・燃料電池・マイクロ風力・マイクロ水力等の新エネルギー(自然エネルギー)の普及が進めば、温室効果ガスの削減は確実です。事業としても創造的で、投資が将来に生きます。サマータイム制では、費用に比べて削減効果が薄く、将来的な投資にもなりません。
 温室効果ガスの削減には、自然エネルギーの普及に注力するのが効果的です。

 自然エネルギーの推進は、わが国の安全保障も兼ねます。
 現状主流である大規模発電・送電システムは、排出物の問題とは別に、災害やテロに弱いことが知られています。電力の生産地と消費地が離れてしまうため、長大な送電線の維持と防衛も必要です。最近では、組織腐敗や従事者のスキル低下による、これまで想定されてこなかったタイプの事故の可能性も浮上しています。
 自然エネルギーは分散発電に向いています。分散発電なら、災害やテロの際も、破局的なダメージを避けることができます。

 分散発電システムが普及すれば、日常的なメインテナンス需要による、地域密着型の安定した雇用が見込まれます。

 わが国では、石油資源・ウラン資源ともに輸入品です。国内で調達可能なエネルギーを活用して石油依存を脱することは、地域としての自立性を高め、わが国の国際的な地位を強くします。(資料3)

 エネルギーも地産地消の時代です。サマータイム制の導入に使う資金があるなら、自然エネルギーによる分散発電システムの普及に投資すべきです。

【IT技術者にしてもらうべき仕事】

 サマータイム制の導入には、大規模かつ広範なソフトウェア改修が必要になります。改修の必要な領域は、大騒ぎになった「コンピュータ2000年問題」をはるかに超えます。2000年問題では、不具合を起こすシステムのみの改修でしたが、サマータイム制が導入されれば、正常に動いているシステムも含めて、ともかくすべてを作り直さなければならなくなるからです。
 コンピュータ・システムの変更作業で経済効果が、という話がありますが、その「一時的な儲け話」は、大袈裟でなく、わが国の国力低下を招くと思います。数に限りのあるIT技術者たちが、サマータイム対応のための「本来しなくてもいい、創造的でない仕事」をこなす間、先端分野への注力ができません。それはわが国のソフトウェア産業の進歩を停滞させ、わが国が国際的リーダーシップを取る機会を失う要因となります。
 私の懸念は、サマータイムに賛成する人たちが、そういうコストまで考慮に入れて賛成しているようには見えないところです。

【軽視できない時刻変更の負担】

 サマータイム制が導入されると、年に二回、全国民が、身の回りすべての時計について、時刻合わせをしなくてはなりません。いまや家庭は電子機器でいっぱいです。ためしに、時計やタイマー機能のついた製品を数えてみます。  掛時計、目覚し時計、腕時計、炊飯器、電子レンジ、洗濯機、エアコン、お風呂、テレビ、ビデオ、ビデオのリモコン、ラジカセ、携帯ラジオ、留守番電話、電話の子機、携帯電話、パソコン、カメラ、自動車、カーナビ、……。すぐに思いつく一般的なものだけで、これだけあります。もっとあるかもしれません。
 ○○さまは、これらの時刻合わせを自力でできますか。私の母と祖母には、絶対にできません。実家の時計の大半は、サマータイムに突入しても、以前の時刻を指したままになるでしょう。
 「合わせ損ね」の時計による混乱が起きることは確実です。そのとき、誰が損失を補ってくれるのでしょう。時計を合わせられない人が責任をかぶるべきなのでしょうか。

 時刻を合わせるのに、各製品の取扱説明書を探す時間も考えたら、一つ五分でできたら上等でしょう。、十個あれば一時間はかかります。サマータイム制が導入されたら、全国民が毎年二回(始まる日と終わる日)、この作業を強いられます。自給千円の労働と考えれば、作業人口を一億人として、実に二千億円の労働に相当します。それが毎年です。
 サマータイム制の運用には、巨大な国民的損失が伴うのです。

【ライフスタイルについて】

 生活構造改革フォーラムは「充実したライフスタイルの実現」を掲げています。
 しかし「そのためにはサマータイムが必要」という合理的根拠は示していません。

 単純に考えて、時差出勤・フレックスタイム制の方が、社会的なメリットは大きいはずです。時差出勤が普及すれば、通勤ラッシュが緩和されます。通勤時の苦痛は緩和され、鉄道や道路といった社会インフラの必要水準は下がります。大規模なコスト削減が可能になり、しかも導入コストはサマータイムとは比較にならないほど低いのです。
 とりあえず「中央省庁の始業時刻を変更する」だけでも、勤務時刻が分散化され、通勤者の苦痛を緩和し、過剰な投資を回避する効果が見込めるのではないでしょうか。サマータイム制では、ラッシュ・ピークを引き下げる効果はありません。
 サマータイムの前に、時差出勤・フレックスタイム制の普及を推進すべきです。

 また「夕方の明るい時間が活用できる」という説明があります。ご存じのように、わが国で「夏の夕方」といえば、大半の地域、特に都市部では、いちばん外に出たくない時間です。サマータイム制を活用しているという西欧諸国とは、気候がまったく異なるのです。
 朝の涼しい時間に、ジョギングや庭いじりや犬の散歩をしている人たちがいます。そういう人には夕方に変更せよというのでしょうか。熱射病で倒れる心配が先に立ちます。犬の散歩など、夕方にはあまりにも酷です。日が落ちて時間が経って、アスファルトが十分冷えてからでないと、犬が死んでしまいます。
 サマータイム制が導入されると、朝の豊かな時間が一律に奪われてしまいます。代わりの時間はありません。

 農業・漁業に従事していると、時計が進んだからといって仕事の時間を変更することはできません。会社への出勤の時間が一律に早くなってしまうと、農家の大半を占める兼業農家では、朝の時間に行うべき農作業ができなくなり、ライフスタイルが崩壊してしまいます。
 サマータイム制の導入は、わが国の食料生産に悪影響を及ぼしかねません。

 忘れてならないのは、西日本ではすでにサマータイムを実施しているのと同様だということです。
 夏の沖縄では、まだ明るく日差しのきつい時間に、東京からの「こんばんは」という放送が流れます。サマータイム制が導入されれば、さらに一時間太陽は高くなります。問題になっている深夜型のライフスタイルに拍車がかかるだけです。いったい、何のメリットがあるのでしょう。

 サマータイム制の導入は、「それぞれの地域、それぞれの職業、それぞれの家族、それぞれの人」に由来する、多様なライフスタイルへの配慮を欠いています。
 日照の変化に生活を合わせるなら、時計の針を全国一律に進めるサマータイムでなく、「必要な地域で、必要なだけ」登校や出勤の時刻を調整する方が、国民全体の利益になります。

【お願い】

 サマータイム法案が党内で議論されたら、その議論の内容をオープンにしてください。
 いま手に入る資料で検討するかぎり、考えれば考えるほど「導入すべきでない」という結論が出てしまいます。その一方、推進派の言い分が、さっぱり聞こえてこないのです。
 超党派の「サマータイム制度推進議員連盟」にしても、ホームページもなく、どなたが参加しているのかさえよくわかりません。推進団体の「財団法人社会経済生産性本部・生活構造改革フォーラム」のホームページに書かれている内容は、ほぼ完全に論破されています。どういうつもりで法案を提出するのか、ぜひ党内での議論を通じて明らかにしていただきたいのです。

 サマータイム制が導入された場合、予測されるデメリットは、具体的にいくつも指摘できます。メリットは、あるのかないのか不明です。
 つまり、わが国へのサマータイム制度の導入は「すべきでない」と考えざるを得ません。不明瞭な効果に対して、導入コストも運用コストも、考えられるリスクも、あまりにも大きいのです。

 しかも、重大なことに、国民への説明がほとんどなされていません。導入を強行すれば社会は混乱し、高いコストとの相乗効果で、国力の低下を招くことは間違いありません。
 サマータイム制の導入については、ぜひとも、十分な時間を費やし、広く開かれた議論を展開していただきたく存じます。
 どうぞよろしくお願い申し上げます。


 上記の内容につきまして、何かご不明な点などあれば、☆☆までお問い合わせください。可能なかぎりの対応をさせていたださます。

 お忙しいところ、突然このような手紙をさしあげ、失礼いたしました。今後ますますのご活躍を期待しております。

氏名
メール
住所
電話

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▼資料1
サマータイム導入による「省エネ効果(原油換算)50万キロリットル」(財団法人社会経済生産性本部・生活構造改革フォーラム)
http://www.seikatukaikaku.jp/summer/d.html

オフィスの「冷房温度を全国で1℃上げれば、1年間で原油換算約84万キロリットル分のエネルギーを節約できる」(環境白書 平成9年)
http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/honbun.php3?kid=209&bflg=1&serial=10300

「カジュアルな服装が許されない場合でも、たとえばデスクワークの間だけでもネクタイをはずせば、体感温度は2℃ほど涼しく感じられます」(財団法人省エネルギーセンター)
http://www.eccj.or.jp/ambassador/jpn/26/2/2_1.html

「首相、ノーネクタイ宣言 省エネで閣僚にも要請」(産経新聞3月29日)
http://www.sankei.co.jp/news/050329/sei123.htm

「省エネで皆ができることで、一番簡単なのは、ネクタイをやめることです」(茅陽一・生活構造改革フォーラム代表)
http://www.mhi.co.jp/atom/apower43.htm

▼資料2
「政府が実施する事前施策の費用や、行政・企業などのコンピューターのソフトウェアの改修費など、総額で約850〜1000億円程度と見込まれています。」(財団法人社会経済生産性本部・生活構造改革フォーラム)
http://www.seikatukaikaku.jp/summer/j.html

▼資料3
小泉首相、ラジオで「脱石油戦略」策定を語る(財団法人環境情報普及センター)
http://www.eic.or.jp/news/?act=view&serial=10054

自然エネルギーの活用で「中東に対するエネルギー対策、また日本の外交交渉にも力を与えますね」(小泉総理、ラジオで語る 第26回「脱石油戦略」/首相官邸)
http://www.kantei.go.jp/jp/koizumiradio/2005/0416.html
……そういうわけで、反対です。(反対の理由はまだまだあるけど)

この手紙は自由にコピーしてもらいたくて掲載しました。
これを読まれたみなさんも、地元の国会議員の人に送ってください。
メールがなかったら、プリントして事務所に持っていくか、郵送してください。
事態は切迫しています。

わしはふだん「国益」とかあんまり言いませんが、サマータイムについては言います。
サマータイム制度を導入するのは、わが国のためになりません。賛成している国会議員は、背任行為を働こうとしているのです。国賊です。無知、あるいは想像力が欠如しているための賛成であっても、それは罪です。
いま賛成の議員さんでも、手紙を読んで意見が変るなら、コロッと変えていただきたい。「君子豹変す」といいます。この言葉は、こういうときに使うのです。
松永洋介 ysk@ceres.dti.ne.jp